回想

大学2年のとき、僕はアルバイトに明け暮れていた。
スーパーのレジ打ちというごくごく平凡なアルバイトだけど、そこで生まれて初めて自分でお金を稼いだし、いろいろ学ぶことも多かったのですごく印象に残っている。
シフトは週6回は入っていて、学校の講義が終わると僕はすぐさま自転車(半年後は原付で)でバイト先のスーパーへ向かった。
来る日も来る日も僕はレジ打ちをやった。その割には打ち間違いおつりの間違いなど多かったけど…

バイト先で知り合った先輩たちはみな親切で個性的な人たちばかりだった。
僕の教育係的ポジションにいたビーチボーイズ好きのS先輩、広島弁がキュートなKさん、しっかり者なのか天然なのかいま一つはっきりしない美人のYさん、サッカー部なのにサッカー部員らしくない謙虚なN先輩、男に振られ精神状態がおかしくなっていたUさん。
夜になると全くといっていいほど客の途絶えるこのスーパーは、バイト2人だけ店内にいるという状況だった(店長は午後6時を過ぎると帰っていた)。
そんなわけで、暇な二人は延々と話をすることになる。
自分と全くタイプの違う人たちと話すのは楽しかった。最初は学校の講義のこと(教授の評判だとか、レポートの書き方だとか、試験の内容とか)や、世間話が主な話題なんだけど、そのうち話すことがなくなり、自分の生い立ちや恋愛の話なんかになっていってどんどんディープな方向へいった。
他人とこんな突っ込んだ話をできるのはそうそうできることじゃないと思い、僕は毎日バイトに行くのが楽しみになっていった。

そんなある日Uさんから、友人たちと鍋をやるから来ないかと誘われた。僕は家に帰っても暇だったので何も考えず行くことにした。
Uさんの友人のアパートへ行くと、僕は後悔した。女3人に男は自分ひとり…。こんなミニマムな体制で鍋ってやるものなのか?しかも女性だけって…。ウブな僕は緊張し、何も喋らず、黙りこくっていた。
まずいなあ。連れてきてくれたUさんに申し訳が立たない。そう思うと僕はおもむろに飲めない焼酎を飲み始めた。
酔った僕は完全に人格が変わり、陽気に喋りだした。そうこうするうちにUさん達とも打ち解け、あっという間に夜が明けた。帰り道の途中朝陽を浴びながら僕は河川敷で吐いた。

それからというもの、僕は彼女らにたびたび呼び出され、深夜のドライヴに鍋パーティーとなかなか楽しい時間を過ごさせてもらった。

しばらくして僕はバイトを辞め、それと同時にその人たちとの付き合いもなくなった。

3年前のことなのにすっかり忘れていた。